あるところに隣り合った二つの小さな国がありました。赤バラ国と白バラ国。 赤バラ国の国民は赤いバラが大好き。白バラ国の国民は白いバラが大好き。 けれども、二つの国は、お互いのいいところを認め合っていて、とても仲のいい国同士でした。 二つの国の国境に仲のいい二軒の家族が住んでいました。 両方の家族には、同い年の男の子がいました。 赤バラ国のほうの家の子の名前は、ハンス。 白バラ国のほうの家の子の名前は、ジョン。 お父さん同士、お母さん同士も仲良しでしたから、ハンスとジョンも、とても仲良しでした。 二人はお互いの家の裏にあるバラ園でよく遊びました。 「なんてきれいなバラなんだろう」 ハンスの家のバラ園の赤いバラを見て、ジョンは言いました。 「なんてきれいなバラなんだろう」 ジョンの家のバラ園の白いバラを見て、ハンスは言いました。 二人は仲良く遊んで大きくなりました。 ちょうどその頃です。 二つの国の王さま同士が、ささいなことからけんかをして、二つの国は戦争を始めてしまいました。 国境は危険だと言うことで、二つの家族はそれぞれの都に引っ越しをすることになりました。 本当ならお別れを言いたい仲良し同士なのに、今では敵同士。お別れを言うこともできないのです。 二組の家族は悲しい気持ちを引きずりながらうまれ故郷をあとにしました。 それぞれの都には、国のあちこちから若い男たちが呼び集められていました。 彼らは兵隊になるのです。 それまで着ていた服を脱いで、軍服に着替えます。 それまで使っていた道具のかわりに、手には銃が与えられました。 ハンスもジョンもそれぞれの国の兵隊に取られてしまいました。 白バラ国の兵隊は、軍服の胸に白いバラをつけます。 ハンスも軍服の胸に白いバラをつけました。 その白いバラは今までにハンスが見たどんな白いバラよりも醜く見えました。 けれどもそんなことは口にはできません。 そんなことを言ったなら、上官からどんな厳しい罰を受けるか知れないのです。 おまけに、それが世間にばれたら、お父さんやお母さんにまでひどい仕打ちがまっています。 ハンスは、じっとがまんしました。 同じころ同じように兵隊に取られたジョンも赤いバラを胸につけながら、同じことを考えていました。 ハンスとジョンは、国境近くの戦場に送られました。 懐かしいふるさとは見る影もなく変わり果てていました。懐かしい家も村も焼け野原。二人が遊んだ山や畑は踏み荒らされ、爆弾で吹き飛ばされた岩や木があちらこちらに飛びちっていました。 ハンスとジョンは悲しくなりました。 けれども今は戦争です。そんな弱音を言うことはできないのです。 最前線に配属されたハンスは、岩陰で銃を構えました。 ズキューン、ズキューン 銃弾が雨あられのように飛び交います。 けれども、ハンスは、引き金を引くことができませんでした。 敵軍の兵士の胸につけられた赤いバラ。 「ジョンの赤いばらを撃つなんて僕にはできない」 ハンスは思いました。 そのとき、ズッという音が聞こえて、ハンスは倒れました。 弾がハンスにあたったのです。 胸の白いバラがはらりと地面に落ちました。 「ジョン」 と言い残して、ハンスは息を引き取りました。 同じころ、赤バラ国の陣地では、ジョンが死にました。 「ハンス」 と言い残して。 戦争は、一年ほどで終わりました。 両方の国が、死の商人から買った大型爆弾を撃ち合って、両方とも滅びてしまったのです。 それから何十年かたって、ひとりの旅人が、ジョンとハンスの家のあった辺りを歩いていました。 焼け跡になった家の裏のバラ園を見て、旅人は、 「わー」 と歓声を上げました。 それは、素晴らしいバラの花園でした。 赤と白のバラが入り乱れ、中には、赤と白のまだらやピンクのバラも咲いていました。 「人間は、どうして、このバラのようにできなかったのだろう」 歴史を知っている旅人はそう思いながら、涙を流しました。 (終) |
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