『ひまわり』
娘は、おひさまが大好きでした。
明るい光をくれて、温かさをくれて、大地に恵みをくれるおひさま。
娘は、おひさまに話しかけます。
朝には、「おはようございます。今日も一日よろしくお願いしますね。」
昼間には、「こんにちは。おかげさまで温かいですよ。」
夕べには、「ごきげんよう。また明日もお会いしましょうね。」
おひさまも、そんな娘が大好きになりました。だって、娘はいつも、自分を見て、とてもうれしそうに微笑んでくれるのです。
「やあ。笑顔をありがとう。」
おひさまは、素敵な笑顔をくれる娘をもっと喜ばせようと、毎日、娘と彼女の周りを燦燦と照らしました。
やがて、娘は年頃になり、たいそう美しくなりました。親や周りの人たちは、もうそろそろお嫁に行ってもいい頃だと、素敵なお相手を見つけてきてはお見合いをさせようとしました。
ところが、娘は「いやだ。」、「いやだ。」と言うばかり。
だって、彼女は、おひさまのことが大好きなのですから。
朝はだれよりも早く起きて、東の空に日の出を待つ娘。おひさまが登ると、ひなたに出て、いっしょうけんめいに働きます。
だれだって、大好きな人には、がんばっている自分を見せたいものでしょ。大好きなおひさまに、働き者の自分を見てもらおうと娘もせっせと働きました。
おひさまも同じです。
ときどき仕事の手を休めて自分を見上げてくれる娘のために、いっしょうけんめいに働きます。みんなを照らすだけではなくて、雲を作り、雨を降らし、風を起こすのもみんなおひさまの仕事。とても忙しいのです。
それでも、ときどき、顔を合わせては笑顔を交わし、相手が元気になるような言葉をかけあいました。
ところが、ある日のこと、娘が結婚をいやがるのはおひさまのせいだと知って、怒った父親は、娘を暗い土蔵の中に閉じこめてしまいました。
おひさまの光が少しも入らない暗い土蔵の中で、娘は泣きつづけました。
ふかい悲しみに娘の心ははりさけ、あれほど元気だった娘は、その夜のうちに死んでしまいました。
一方、おひさまは、空の上から、必死に娘を探しました。
毎日自分を見てくれていた、すてきな娘が見つからない。
おひさまは、一日に一回世界を廻るという約束も忘れて、空の一点に止まったまま、じっと娘の家を見つめました。
そして、変わり果てた姿になった娘が、土蔵から運び出されるのを見つけたのでした。
涙のお葬式、そして、埋葬。父と母はもちろんのこと、村中が明るくて働き者だった娘の死を嘆き悲しみました。
そして、だれよりも悲しんだのが、おひさまでした。死んでしまった娘が土に埋められてしまうのを見たおひさまは、悲しみのあまり光りをなくしてしまいました。
世界中が真っ暗になりました。人も動物たちも困りました。このままだと、ずっと暗くて寒い夜が続いてしまうのです。
どのくらい真っ暗な時間がたったことでしょう。おひさまは、大好きな娘の声が聞こえた気がして耳を澄ませました。
声は娘のお墓から聞こえていました。
「大好きなあなた。どうか、私のことを照らしてくださいな。」
おひさまは言われたとおりにしました。
おひさまからひとすじの光が、娘のお墓に降りそそぎました。
すると、一本の芽が顔を出しました。
明るいおひさまの光を浴びて、葉を出した草はどんどん伸びつづけて、やがて、おひさまと同じ色をした大きな花が咲きました。
「またお会いできましたね。」
花は笑顔を見せました。
「きみなんだね。また会えてよかった。」
おひさまは大好きな娘の笑顔に再び会えたうれしさに、もとの輝きをとり戻しました。
花は多くの種をつけ、世界中に広がっていきました。そうすれば、いつだって大好きなおひさまに笑顔を届けられるのですから。
世界中に広がった、今は花になった娘の笑顔を見るために、おひさまもまた世界中を回りはじめました。
みんなが、ほっとしたというのは、言うまでもありません。
いつしか、人々は、毎朝、おひさまのやってくる方を待ち遠しそうに見ているその花を、ひまわりと呼ぶようになりました。
FIN